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【2026年10月義務化】カスタマーハラスメント(カスハラ)対策義務化とは?
企業が今すぐ取り組むべき実務ポイント

近年、店舗や電話口で「土下座しろ」「SNSで実名をさらすぞ」と大声で怒鳴られる――。こうした顧客からの理不尽な要求や暴言、いわゆる「カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)」が、深刻な社会問題となっています。
「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」(厚生労働省委託事業)では、過去3年間に勤務先で顧客等からの著しい迷惑行為(カスハラ)を経験した労働者は10.8%(約10人に1人)にのぼり、理不尽な迷惑行為によって従業員が精神的に追い詰められるケースが後を絶ちません。
こうした事態を受け、「労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)」が改正(令和7年法律第63号)され、これにより、2026年(令和8年)10月1日より、すべての企業に対してカスハラ防止のための措置を講じることが法律で義務付けられることになりました。
本記事では、法改正のポイントから「カスハラ」の判断基準、企業が今すぐ取り組むべき実務対応までを解説します。

目次

どこからがカスハラ?厚生労働省が定義する「3つの要素」

顧客から厳しい意見を言われた際、現場が最も悩むのが「正当なクレーム」と「カスハラ」の線引きです 。 
厚生労働省が公表した指針(「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」令和8年厚生労働省告示第51号)では、以下の「3つの要素」をすべて満たす言動をカスハラと定義しています。

  1. 職場において行われる、顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者の言動であって、(行為主体)
    BtoCの一般顧客だけでなく、BtoBの取引先、今後取引をする可能性のある潜在的な顧客、駅や病院、福祉施設等の利用者なども広く含まれます。
  2. その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、(程度)
    言動の内容(要求)が契約に照らして妥当であるか、あるいは手段・態様(態度)が一般的な常識を超えているかを総合的に判断します。
  3. 労働者の就業環境が害されること(影響)
    従業員に身体的または精神的な苦痛が与えられ、就業する上で見過ごせない程度の支障が生じる状況をいいます。

- 代表的な「カスハラのタイプ」-

カスハラに該当する不適切な言動には、いくつかの典型的なパターンが存在します。
以下のタイプは、法令上の分類ではありませんが、厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」等で紹介される代表的な例です。

タイプ 具体的な言動例
時間拘束型 正当な理由がない、または要求が不当であるにもかかわらず、長時間にわたり電話で拘束したり居座り(不退去)を続けたりする行為。
リピート型 頻繁、または執拗に同様のクレームや問い合わせを繰り返す行為。
暴言型 「死ね」「バカ」「クビにするぞ」などの暴言、大声での恫喝、人格を否定するような発言。
暴力型 胸ぐらを掴む、殴る、蹴る、物を投げつけるなどの身体的攻撃。
威嚇・脅迫型 「店舗を壊すぞ」「ネットやSNSでさらすぞ」と脅すような言動。
権威型 優位な立場を利用し、特別扱いを強要する行為。
SNS誹謗中傷型 インターネット上に、会社や従業員個人の社会的評価を低下させる情報を晒す行為。
セクシュアル型 従業員に対して性的な言動や、つきまとい行為。

「正当なクレーム」と「カスハラ」を見極める境界線

現場の混乱を防ぐためには、すべての顧客対応を「カスハラ」として拒絶するのではなく、「正当なクレーム」との境界線をしっかりと整理しておくことが不可欠です。

  • 正当なクレーム(顧客の貴重な声)
    「商品が初期不良で動かないから交換してほしい」など、要求に合理的な理由があり、その伝え方も冷静な対話であるものは、サービスの質や商品を改善するための貴重な情報です。
  • カスハラ(毅然と拒絶すべき迷惑行為)
    「言動の内容(要求)が不当なもの」(実際の損害を大幅に超える過度な金銭賠償、担当者の解雇要求、到底不可能なサービスの強要等)、または、「要求内容には理由があっても、手段・態様が不適切なもの」(怒鳴る、脅す、土下座を強要する等)が該当します。

- 判断のマトリクス -

自社に不備(商品不良や接客ミスなど)があったとしても、「顧客の不適切な言動(暴言、威圧、長時間の居座りなど)をすべて受け入れなければならない」わけではありません。たとえ企業側に落ち度があったとしても、手段や態様(態度)が不適切であれば、それは「カスハラ」として、組織的に対応すべきです。

  要求を伝える「手段・態様」が適切 要求を伝える「手段・態様」が不適切
要求内容が「妥当」
(自社に落ち度がある)
【正当なクレーム】
迅速・誠実にお詫びと対応する。
【カスハラ】
ミスへのお詫びはしつつも、暴言などの不適切な言動に対しては毅然と拒絶する。
要求内容が「不当」
(自社に落ち度はない)
【過剰・不当な申し出】
理由を丁寧に説明し、明確にお断りする。
(お断りしても執拗に繰り返す場合は、【カスハラ】として対処。)
【カスハラ】
対応を打ち切り、上司や担当部門、弁護士・警察と連携して組織的に対処する。

注:厚生労働省指針の考え方を踏まえて作成した一般的な判断の目安(参考例)です。実際の「カスハラ」の認定ラインや対応手順は、業種や事業形態、企業ごとの方針によって異なります。各企業の実情に合わせ、自社における境界線を協議し、独自の基準としてマニュアル等に明文化しておくことが重要です。

なお、顧客による正当な苦情や改善要望の表明そのものはカスハラには該当しません。また、障害者差別解消法に基づく合理的配慮の求めは、それ自体をもってカスハラと判断すべきものではありません。企業は顧客の正当な権利にも十分配慮しながら、適切な線引きを行うことが重要です。

「うちはBtoBだから関係ない」は要注意

カスハラという言葉から、小売店や飲食店などのBtoC企業だけの問題と考える企業も少なくありません。しかし、厚生労働省の指針における「顧客等」には、一般消費者だけでなく取引先企業の担当者や発注元企業なども含まれます。
例えば、

  • 取引先担当者から日常的に怒鳴られる
  • 契約上の範囲を超える業務を強要される
  • 深夜や休日の対応を執拗に求められる
  • 取引停止をほのめかしながら過度な要求を行う

といった行為は、内容や態様によってはカスハラに該当する可能性があります。
そのため、BtoC企業はもちろん、BtoB企業においても、カスハラ対策は必要です。

厚生労働省の指針が求める「雇用管理上の措置」

2026年10月より、事業主には法律に基づき、カスハラ防止のため、以下の4つの措置に加え、プライバシー保護と不利益取扱いの禁止に関する措置が求められます。

① 事業主の方針等の明確化と周知・啓発

まずは「カスハラは許さない」「従業員を組織として守る」というトップメッセージ(方針)を明確に宣言することから始まります。また、カスハラが発生した際の、現場での具体的な対処方法やルールをあらかじめ定め、対応マニュアルや従業員研修等を通じて周知します。

  • 服務規律・ハラスメント防止規程への明記(相談や事実確認への協力を理由とした解雇・降格その他不利益取扱いの禁止を明記)
  • 就業規則の改定(自社従業員が加害者になった場合の懲戒基準の追加など)
  • 全従業員に向けた研修の実施(パート・アルバイト・派遣労働者も対象)

② 相談体制の整備・周知

従業員が被害を一人で抱え込まず、すぐに報告できる窓口(既存のパワハラ・セクハラ窓口との一体運用も可能)を定めます。

  • 「明らかなハラスメント」だけでなく、「判断がグレーで微妙なケース」も広く気軽に受け付けられる体制にすることが重要です。
  • パートやアルバイト、派遣社員にも相談窓口が利用できることを周知徹底します。

③ 事後の迅速かつ適切な対応

カスハラ事案が発生した場合には、速やかに事実関係を確認し、被害を受けた従業員への配慮を行います。

  • 事実関係の迅速かつ正確な確認(録音データや周囲の目撃証言の確認など)
  • 被害者への適切な配慮措置(配置転換、精神的に疲弊した場合の産業医等によるメンタルケア)
  • 再発防止に向けた原因分析と改善策の実施

④ カスハラ抑止のための措置

特に悪質なカスハラへの対応方針をあらかじめ定め、従業員が組織として適切に対応できる体制を整備します。

  • 対応基準やエスカレーションルールの整備
  • 管理職や本部への報告体制の構築
  • 特に悪質な顧客への対応方針の策定(出入禁止、サービス提供の停止、警告文の送付など)
  • 必要に応じて弁護士との連携や法的措置の検討、警察への通報

【併せて講ずべき措置】

⑤プライバシー保護の徹底

相談者や関係者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その内容を従業員へ周知します。

⑥不利益取扱いの禁止

相談したことや事実確認への協力を理由として、解雇その他の不利益な取扱いを行わないことを定め、従業員へ周知・啓発します。

カスハラ対策を放置した場合の「企業リスク」

防止措置を怠ったまま放置すると、企業は主に以下のようなリスクを抱えることになります。

  • 安全配慮義務違反
    企業は従業員が生命、身体、精神等の安全を確保しつつ労働できる環境を整える「安全配慮義務(労働契約法第5条)」を負っています。カスハラを放置した結果、従業員がメンタル不調やうつ病を患い、あるいは休職・離職に至った場合、企業が「安全配慮義務を怠った」として、損害賠償責任を負う可能性があります。
  • 人手不足時代における「採用力・人材定着力」の著しい低下 
    ハラスメントが放置されるような労働環境と見なされれば、現在働いている優秀な人材が他社へと流出し、採用活動においても求職者に敬遠される致命的な損失が生じます。
  • 企業名公表による企業イメージの悪化
    措置義務違反に対して、都道府県労働局からの助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わない場合には企業名が公表される可能性があります。公表となった場合、社会的な信頼や企業イメージを大きく失墜させます。

実務チェックリスト(7つのアクション)

施行日までに着手しておきたい実務対応を、以下の7つのアクションに整理しました。

  • トップメッセージの発信
  • 就業規則の改定
  • 相談窓口の整備
  • 現場対応マニュアル(正当なクレームとカスハラの線引き、対応フロー、切り返しのフレーズ、記録用フォーマット)の作成
  • 客観的な記録体制(「通話録音システムの導入」、対面対応時における「応対記録票等の作成」)の構築
  • 従業員研修(ロールプレイングを取り入れた実践的な対応訓練)の実施
  • 弁護士や管轄警察署などの連携構築

よくある質問

Qカスハラへの対処の内容は、実際に社外の人と接する機会のある労働者にのみ周知すればよいか。
A

カスハラ防止指針において、「労働者」について、「事業主が雇用する労働者の全てをいう。」としていることから、カスハラへの対処の内容を周知するに当たっては、労働者が社外の人と接する機会があるか否かを問わず、全ての労働者に対して周知する必要があります。

Qカスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針は、顧客等にも周知する必要があるのか。
A

管理監督者を含む労働者に周知・啓発することは必要ですが、顧客等に周知することまでは義務付けられていません。一方で、当該方針を顧客等に周知・啓発することも、被害の防止に当たっては効果的と考えられます。

(出典:厚生労働省「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」)

おわりに

「カスハラ対策の義務化」は、単なる法的な義務への対応として、消極的に捉えるべきではありません。
内部通報窓口を運営する中で見えてくる実態として、「顧客からのカスタマーハラスメントを上司に相談したにもかかわらず十分な対応がなされず、結果として二次被害(パワハラや組織への不信感など)に発展するケース」は少なくありません。カスハラは顧客との間で生じる問題にとどまらず、社内のマネジメントや組織風土とも密接に関係しています。
こうした事態を防ぐためには、従業員が安心して相談できる風通しの良い相談体制を整え、それを実効性のあるものとして機能させることが重要です。「会社が組織として自分を守ってくれる」という安心感は、従業員の心理的安全性を高め、エンゲージメントや人材定着にもつながります。
形だけのルール整備で終わらせるのではなく、「実際に機能する相談体制づくり」を通じて、従業員が安心して働ける職場環境を実現していきましょう。


〈参考資料〉

  • (厚生労働省) 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号)
  • (厚生労働省雇用環境・均等局雇用機会均等課)ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について
  • (厚生労働省)事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)
  • 厚生労働省委託事業「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」報告書
  • 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」