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改正公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の実効性向上
~「制度がある」から「制度が機能する」へ~

企業不祥事が発覚するたびに、「なぜもっと早く問題を把握できなかったのか」という疑問が投げかけられます。実際には、現場で問題を認識している従業員が存在していたにもかかわらず、その情報が経営層やコンプライアンス部門まで届かなかったケースは少なくありません。
こうした問題を早期に把握し、組織内で解決するための重要な仕組みが内部通報制度です。
しかし、多くの企業では制度自体は整備されているものの、十分に活用されているとは言い切れないのが現状です。
近年、企業を取り巻く社会からの期待は大きく変化しています。法令遵守はもちろん、人権尊重や企業倫理、ESG・サステナビリティ経営といった観点からも、組織が自浄作用を発揮できる体制を構築することが求められています。その中で内部通報制度は、単なる法令対応のツールではなく、健全な組織運営を支える重要な経営基盤として位置付けられるようになっています。
さらに、2026年12月には改正公益通報者保護法が施行され、内部通報制度の実効性向上に向けた新たなルールが導入されます。
今回の改正は、制度の整備だけでなく、「実際に機能する制度」とすることを企業に求める内容となっています。
本コラムでは、内部通報制度の実効性を高めるために企業が取り組むべきポイントについて考えてみたいと思います。

目次

内部通報制度は「不正を告発するためだけの制度」ではない

内部通報制度について説明すると、「社員同士を監視する制度」や「不正を告発するための制度」といったネガティブなイメージを持たれることがあります。
しかし、本来の目的はそこにはありません。
内部通報制度の本質は、組織内で発生している問題を早期に把握し、重大な事態に発展する前に改善することにあります。
品質データの改ざん、長年にわたる不適切な会計処理、職場での深刻なハラスメント、情報漏えいや安全衛生上の問題などが放置された場合、企業は大きな損害を被る可能性があります。
一方で、組織内部で早い段階で問題を把握し対応できれば、不祥事の拡大を防ぎ、顧客や取引先、株主からの信頼を守ることができます。また、ハラスメントや法令違反などによる被害の拡大を防ぎ、従業員が安心して働ける職場環境を守ることにもつながります。
つまり、内部通報制度は企業を守るためだけでなく、そこで働く従業員を守るための制度でもあるのです。
実際、多くの不祥事事例を振り返ると、「問題を安心して伝えられる環境がなかった」ことが根本要因になっています。

なぜ内部通報制度が利用されないのか

法令上は通報者保護が規定されていても、従業員が安心して利用できなければ制度は機能しません。
実効性を高めるためには、まず「なぜ従業員は声をあげるのをためらうのか」という心理的・組織的な阻害要因を理解する必要があります。

【阻害要因1:報復や不利益取扱いへの不安】

従業員が抱く不安としては、

  • 誰が通報したか知られてしまうのではないか
  • 人事評価に影響するのではないか
  • 異動や昇進に不利益が生じるのではないか
  • 上司や同僚との関係が悪くなるのではないか

といったものが挙げられます。こうした不安は通報をためらう最大のハードルです。

【阻害要因2:どうせ何も変わらないという諦め・不信感】

過去に誰かが勇気を振り絞って声を上げたのに、会社がまともに調査をしなかった、あるいは行為者が軽い口頭注意で済まされ、うやむやにされた……。こうした組織風土が定着している企業では、従業員は「通報するだけ無駄だ」「波風を立てるだけ損をする」と学習してしまいます。
また、通報した後の調査進捗や、最終的な結果に対するフィードバックが一切ないことも、窓口に対する不信感を増幅させる大きな原因となります。

【阻害要因3:制度に対する認知・理解不足】

「そもそも社内に通報窓口があることを知らない」「窓口の連絡先がどこに掲載されているかわからない」という認知不足も問題です。入社時のオリエンテーションで一度説明されただけで、その後一切のアナウンスがない企業では、いざという時に制度は活用されません。
また、「自分の抱えている悩み(例えば、パワハラなのか厳しい指導なのかの線引き)が、通報の対象になるのか判断できない」と迷った結果、通報を諦めてしまうケースも多々あります。

特に日本企業では、協調性やチームワークを重視する文化があるため、「通報=仲間を裏切る行為」と受け止められてしまう場合もあります。しかし、本来の内部通報は組織をより良くするための行動です。
そのため企業には、「問題を見つけたら声を上げることが組織への貢献である」というメッセージを継続的に発信することが求められます。「安心して利用できる」という心理的安全性の確保が重要なのです。

実効性を高めるためのアクション

具体策1:経営トップからの強力なメッセージ発信

内部通報制度が機能している企業には共通点があります。
それは、経営層が制度の重要性を理解し、明確な姿勢を示していることです。
もし経営トップがコンプライアンスよりも業績を優先するメッセージを発している場合、従業員は問題を見つけても声を上げにくくなります。
逆に、「問題があるなら報告してほしい」「通報した人を守る」「問題を隠すことの方が組織にとって大きなリスクである」という姿勢を示し続ければ、組織文化にも大きな影響を与えます。
内部通報制度は、窓口や規程があるだけでは機能しません。
最終的には企業風土そのものが制度の利用率を左右します。
そのため、経営トップによる定期的なメッセージ発信は非常に重要な意味を持ちます。

具体策2:信頼される通報窓口を構築する

従業員が最初に接するのは通報窓口です。そのため、窓口が信頼されていなければ制度は利用されません。
実効性の高い窓口には、次のような特徴があります。

① 複数の通報経路が用意されている

上司が通報対象である場合、直属のラインを通じた相談は困難です。
そのため、

  • コンプライアンス部門
  • 人事部門
  • 監査部門
  • 外部弁護士窓口
  • 第三者機関

などから、複数の選択肢を設けることが望ましいです。
一方で、ハラスメントは人事部門の窓口、法令違反はコンプライアンス部門の窓口のように細かく窓口を分けると「どこに相談したらよいのか分からない」と利用をためらう要因になることもあります。制度の実効性を高めるためには、「まずはここに相談してください。内容に応じて適切な部署につなぎます」という総合窓口方式などを採用し、窓口選びに迷わないよう配慮することも同様に重要です。
制度の実効性を高めるためには、「どこに相談すればよいか分かりやすい」設計を意識する必要があります。

② 匿名通報が可能である

匿名で相談できる仕組みは、通報への心理的ハードルを下げます。
もちろん調査上の制約もありますが、まずは「声を上げてもらう」ことが重要です。

③ 利用しやすい仕組みになっている

電話だけでなく、Webフォーム、メール、書面など、通報者がアクセスしやすい方法を複数用意することも有効です。

具体策3:通報後の対応が制度への信頼を決める

内部通報制度の評価は、通報を受けた後の対応によって決まります。重要なのは通報後のプロセスです。
例えば、

  • 受理通知を行う
  • 中立的な調査を行う
  • 必要な是正措置を実施する
  • 経過を適切に共有する

といった対応が求められます。
反対に、

  • 放置される
  • 調査結果が説明されない
  • 問題が改善されない

という状況が続けば、制度に対する信頼は失われます。
通報が寄せられたら、速やかに初動対応を開始し、「現在、関係者へのヒアリングを進めています」「調査の結果、このような是正措置を講じました」と、調査に支障が出ない範囲で進捗や結果をフィードバックすることで、「この窓口は本当に機能している」という信頼が生まれます。仮に調査の結果、通報内容の事実が認められなかった場合でも、客観的な事実に基づいてその理由を丁寧に説明することが、窓口への信頼維持につながります。

一度失われた信頼を回復することは容易ではありません。
だからこそ、受付から調査、是正、再発防止までのプロセスを標準化し、継続的に改善していくことが重要です。

2026年改正公益通報者保護法が示す方向性

2026年12月1日に施行される改正公益通報者保護法は、「通報者保護の強化」と「内部通報制度の実効性向上」を大きな目的としています。 
主な改正内容は以下となります。

比較項目 現行法 改正法 (2026年12月1日施行)
従事者指定・体制義務の不履行 行政からの助言・指導、勧告および公表に留まる。 勧告に従わない事業者に対して「是正命令」を新設。命令違反には刑事罰(30万円以下の罰金が科されるほか、法人にも罰則が適用)が科される。
通報者の探索・通報の妨害 法律上、明文での禁止規定は存在しなかった。 正当な理由のない通報者探索および通報妨害が法律で明確に禁止。通報しないこと等を求める合意(誓約書等)は「無効」となる。
通報後の解雇・懲戒の立証責任 従業員側が「通報の報復処分であること」の立証負担があった。 通報後1年以内の解雇・懲戒は通報を理由として行われたものと「推定」され、企業側が通報と無関係であることを立証する責任を負う。
公益通報を理由とする解雇・懲戒への刑事罰 刑事罰はなし(守秘義務違反の従事者への罰則のみ)。 通報を理由とした解雇・懲戒に対する直罰を新設。個人は6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、法人は3,000万円以下の罰金。
保護対象者の範囲 労働者、派遣労働者、役員、退職後1年以内の退職者。 新たに「フリーランス(特定受託業務従事者)」および「契約終了後1年以内の元フリーランス」を保護対象に追加。

特に注目したいのは、通報者を探そうとする行為や、通報を思いとどまらせる行為が明確に禁止された点です。従来から問題視されていた「誰が通報したのか探す」「通報しないよう圧力をかける」といった行為に対して、法的な規制が強化されることになります。 
これは、制度を作ることではなく、「安心して利用できる環境を作ること」が法改正の狙いであることを示しています。

これから企業に求められること

法改正への対応という観点だけで見れば、規程の見直しや窓口体制の整備が必要になります。
しかし、それだけでは十分とはいえません。
むしろ重要なのは、

  • 従業員が制度を理解しているか
  • 実際に利用しやすいか
  • 秘密保持が徹底されているか
  • 通報後に適切な対応が行われているか
  • 経営層が制度を支持しているか

といった運用面です。
多くの企業は、内部通報が寄せられることを「面倒なトラブルが発生した」「厄介事だ」とネガティブに捉えがちです。しかし、真にコンプライアンス経営を実践し、実効性の高い通報制度を持つ企業は、通報を「致命的なリスクを早期発見するチャンス」と考えています。
問題を早期に把握し、自浄作用をもって解決できる体制こそが、これからの企業における最強のリスクマネジメントであり、企業価値を守る方法なのです。
今後はますます「内部通報制度がある会社」ではなく、「内部通報制度が機能している会社」が評価される時代になるでしょう。

おわりに

内部通報制度は、問題を早期に発見し、組織をより健全な方向へ導くための予防的な仕組みです。
2026年12月施行の改正公益通報者保護法は、企業に対して「制度の設置」から「制度の実効性確保」へと視点を移すことを求めています。
これからの企業に求められるのは、規程や窓口を整備するだけではなく、「従業員が安心して声を上げられる組織文化」を醸成することです。そのような企業こそが、不祥事を未然に防ぎ、社会からの信頼を獲得し、持続的な成長を実現していくことができるのではないでしょうか。

-よくある質問-

Q以前から解雇その他の懲戒処分等に相当する問題があった労働者が、公益通報を行った場合、その公益通報者に対して解雇その他の懲戒処分等をすることは禁止されますか?
A

公益通報したこと以外の理由に基づいて解雇その他の懲戒処分等をすることは、公益通報者保護法の禁止規定に抵触しません。しかし、紛争を防止するために、解雇その他の懲戒処分等が公益通報をしたことを理由とするものではないこと(通報とは無関係であること)について、事業者において、客観的で合理的な根拠を示すことができるようにしておくことが必要です。

Q通報者探索とはどのような行為を指しますか?
A

公益通報をした可能性がある人に対して、公益通報をしたか否か問う行為や、公益通報者を特定するために、従業員の端末やサーバーの内容を確認する行為等が考えられます。


〈参考資料〉

  • (消費者庁)公益通報ハンドブック改正法(令和8年12月施行)準拠版
  • (消費者庁)公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)
    改正概要(公益通報者保護法、法定指針)
  • (消費者庁)公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)新旧対照条文
  • (消費者庁参事官)公益通報者保護制度Q&A